前立腺がんProstate cancer

前立腺がんとは

前立腺がんは、前立腺肥大症とともに、中高年の男性において注意すべき前立腺の病気のひとつです。
前立腺がんの発生には男性ホルモンが関与しており、加齢によるホルモンバランスの変化が影響しているものと考えられています。
前立腺がんは主に外腺(辺縁領域:PZ)に発生します。ほかの臓器のがんとは異なり、ゆっくりと進行するため、早期に発見できれば、他のがんに比べて治りやすいがんであるといえます。
しかし、初期には自覚症状がほとんどないため、発見が遅れることがあります。進行すると最終的には骨やリンパ節に転移するため、早期に発見し適切な治療を行うことが大切になります。

疫学

前立腺がんは世界的にみた場合、非常に発症頻度の高い疾患といえます。とくに欧米人に多く、アメリカにおいては男性のがんの中で罹患数は1位、死亡数は2位ともっとも多いがんのひとつとなっています。アメリカ人でも黒人に多く、アジア人には少ないことから、人種差が発生に影響していますが、日本人でもハワイ在住の日本人は発生率が高いことより、環境、特に食生活の影響も考えられます。その他に、性活動、ホルモン、遺伝子などが原因に考えられています。現在、日本で最も急激に増えているがんであり、非常に注目されています。
日本では1975年に前立腺がんを発症した患者さんは2,000人程度でしたが、2000年には約23,000人、2020年には78,000人以上となり、肺がんに次いで男性のがんのうち、第2番目の罹患数になると予測されています。また、前立腺がんによる死亡数は、2020年には2000年の約1.4倍になると予測されています。
前立腺がんの罹患率、死亡率を年齢別にみてみると50歳代後半から増加し始め、高齢になるほど高くなります。

診断法

前立腺がんは、胃がんや大腸がんなどの管腔臓器のように内視鏡で直接見ることができないため、下記検査を行って診断する必要があります。
スクリーニング検査 がんが疑わしいかどうかをふるい分ける検査を行う。
これには、血清前立腺特異抗原値(PSA)の測定、直腸診、経直腸的超音波検査が必要です。
確定診断(前立腺生検) スクリーニングでがんが疑われた場合、前立腺に針を刺して前立腺組織の一部を採取し、病理学的に顕微鏡で癌細胞の有無を診断します。
がんが存在した場合はその後の治療法を決める上で重要な悪性度を確認します。
病期診断 生検よりがんと確定診断された場合、CT、MRI、骨シンチグラフィー、などによりがんの進行度(広がり)を確認します。

1. スクリーニング検査

PSA(前立腺特異抗原:prostate specific antigen)

PSAは前立腺の上皮細胞で作られる酵素で、前立腺以外の臓器(組織)で産生されることはありません。普段はその大部分が前立腺液中の分泌されており血液中にはごく少量しかふくめれていませんが、がんができると血液中のPSA量が急激に増えます。そのため、前立腺がんの診断や治療効果を判定する上で非常に有用な指標として利用されています。

PSA値が異常に高ければ、前立腺がんの疑いが濃厚です。しかし、前立腺肥大症や前立腺炎、尿路感染症、あるいは直腸診や膀胱鏡検査、さらには射精や自転車走行によってもPSA値が上昇することがあります。また正常男性のPSA値は、加齢に伴い少しずつ高くなっていきます。このようにPSA値は、さまざまな要因によって上昇します。また前立腺がんには非常に少数ですがPSAが上昇しないタイプもあります。したがって、PSA値だけで前立腺がんと診断することはできません。

前立腺がんとPSAの関係については、PSA値が10ng/mlを越えるときは前立腺生検で60%以上、4.0-9.9の範囲(グレーゾーン)では30-40%、さらに2.0-3.9の範囲では8%前後に前立腺がんと診断される可能性があります。当院では全ての検査を検討して総合的に判断しています。

直腸診(DRE:digital rectal examination)

肛門から医師が指を直腸に挿入し、直腸経由で前立腺の状態を検査する方法です。
前立腺がんの診断には、前立腺の大きさ、硬さ、表面不整の有無などの所見が重要です。
経直腸的超音波検査(TRUS:transrectal ultrasonography)

患者さんを側臥位(横向きに寝た状態)にし、肛門から超音波探子(超音波プローべ)を挿入し前立腺の状態を検査する方法です。正確な前立腺の大きさが測定でき、前立腺がんを疑うhypoechoic lesionを検出することもできます。
また、前立腺生検を直腸から施行する場合(経直腸的超音波ガイド下前立腺生検法)、このTRUSで前立腺を確認し特定の部位に針を刺します。

2. 前立腺生検

スクリーニング検査で前立腺がんが疑われた場合は、確定診断のために前立腺生検が必要です。
通常、超音波ガイド下に前立腺組織を採取し、がん細胞の有無を顕微鏡で確認します。早期がんでは直腸診や超音波で異常所見が明らかではない場合がほとんどですので、前立腺の主に辺縁域(PZ)から系統的ランダムに採取します。 基本的に6ヶ所以上から採取し、麻酔は主に局所麻酔または腰椎麻酔で行います。直腸側から針を刺す経直腸式と、肛門と陰嚢の間から針を刺す経会陰式がありますが、初回生検は経直腸式が一般的です。
この検査でがん細胞が確認されれば、前立腺がんの診断が確定されます。検査時間そのものは10分程度です。
当院では、外来通院で施行しています。合併症に、血尿、血精液症、発熱、排尿障害などがありますが通常一過性で早期に軽快します。

3. 病期診断のための検査

前立腺がんの診断が確定すると、CTあるいはMRI、骨シンチグラフィー検査により、肺・肝・骨・リンパ節などに転移していないかどうかチェックしてがんの進行度(病期)を判定し最終的な治療法を決定します。

臨床病期・悪性度

他のがんと同様に前立腺がんの治療方針を決めるために重要なのが、がんがどの程度進行しているのか(進展度:病期=Stage)と、がん細胞の顔つきはどうか(悪性度:Grade)という事です。

病期分類(Stage)

国際的に病期分類はTNM分類が繁用されており、当院でも採用しております。TNM分類とはT:原発腫瘍、N:所属リンパ節、M:遠隔転移の状態をそれぞれ示しています。

悪性度(Grade)

国際的に悪性度はグリソン分類(グリソン・スコア:Gleason score)が繁用されており、当院でも採用しています。
この分類は、米国のグリーソン博士によって提唱された、前立腺がん特有の組織異型度分類です。まず、生検で採取したがん細胞の組織構造を顕微鏡で調べて、もっとも面積の多い組織像と、2番目に面積の多い組織像を選びます。次に、それぞれの組織像を図に示す1(正常な腺構造に近いがん)~5(もっとも悪性度が高いがん)までの5段階の組織分類に当てはめます。そして、その2つの組織像のスコアを合計したものが、グリソン・スコアになります。
グリソン・スコアでは、もっとも悪性度の低い「2」から、もっとも悪性度の高い「10」までの9段階に分類されることになります。

以上の病期、悪性度、PSA値および患者さんの年齢、基礎疾患などを総合的に判断し、有効で可能な治療法を提示し、患者さんに選択して頂きます。

治療法を選択・決定する上で重要な事

前立腺がんの治療法を選択する上で最も重要なことは、がんが前立腺のなかにとどまっているか否かということです。T分類でいうとT1、T2の前立腺限局がんであるか、T3の局所浸潤がんであるかということです。 しかしながら、この限局がんと局所浸潤がんを治療前に確実に診断することは現在の医療診断機器では困難であり、顕微鏡レベルの浸潤を診断することは不可能です。 このため、たとえ限局がんと治療前に診断されても、約10-20%に局所浸潤がんが含まれており、これが治療後に再発すると考えられています。 この限局がん診断率をより高めるために、悪性度(Grade)、PSA値、生検陽性本数(率)などが参考にされます。

治療法

上記のようにがんの進行状態によって選択すべき(選択可能な)治療法が異なります。

前立腺限局がん
外科的手術;通常の開腹術、腹腔鏡下手術
放射線療法;内照射:小線源療法(LDR)
高密度焦点式超音波手術(HIFU)
放射線療法;外照射:3次元原体照射(3DCRT)、強度変調放射線療法(IMRT)、粒子線治療(陽子線治療、重粒子線治療)
内分泌療法(ホルモン療法)
待機療法(Watchful Waiting)
局所浸潤がん
外科的手術;通常の開腹術、腹腔鏡下手術
放射線療法;小線源療法(LDR)+放射線療法(外照射)
高密度焦点式超音波手術(HIFU)+放射線療法(外照射)
放射線療法;外照射:3次元原体照射(3DCRT)、強度変調放射線療法(IMRT)
上記治療と併用しての内分泌療法(ホルモン療法)
進行がん(転移がん)
内分泌療法(ホルモン療法)
骨転移にたいする放射線療法(外照射)
抗がん剤療法
対症療法

◎・・・根治の可能性の高い治療法、○・・・根治の可能性のある治療法、■・・・根治の可能性のない治療法

治療法の概要

1. 外科的手術療法(根治的前立腺全摘術)

文字通り前立腺を全部摘出する方法で、がんを摘出する唯一の方法です。従来からの開腹術と、より体の負担を軽くする(出血が少ない)目的で腹腔鏡下手術がありますが、前立腺を摘除するという目的は同じです。 麻酔は通常全身麻酔で、3-4週間の入院が必要です。
健康保険が適用され入院費を含め3割負担で約40-50万円かかります。

長所

体からがん細胞を全て取り除ける可能性があり、軽度の局所浸潤がんであれば根治可能です。また摘出した前立腺を病理学的に顕微鏡で詳細に調べる事で、正確ながんの状態を診断できます。この病理診断でがんの残存がある場合は放射線療法などを追加する事ができます。

短所

術中の出血に対し、術前に自分の血液を採取しておく自己血貯血が必要で、約3週間かかるため、手術を決めてから実際の手術施行日までに4週間以上待つ必要があります。 がんの大きさ、進行度によってはがんの一部が体内に残り残存がんとなり、再発する可能性があります。また、手術後に尿もれ(尿失禁)や勃起不全(インポテンツ)が生じます。尿失禁は通常3ヶ月から1年後にほとんど日常生活に支障のない状態まで回復します。インポテンツは術後ほぼ全例に生じ、徐々に回復傾向を呈しますが、年齢、術前の勃起機能、勃起神経の損傷の程度で回復状況は異なります。

2. 放射線療法

X線や他の高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を死滅・壊死させる治療です。治療成績は早期前立腺限局がんであれば外科的手術とほぼ同等です。外照射では局所再発時の追加治療や骨転移の疼痛緩和などの目的に行われることやもあります。 手術を違って体への負担が少なく、性機能が温存しやすいという利点があります。

a. 外部放射線治療(外照射)

三次元原体照射(3DCRT)

電子銃から発射された電子を直線軌道の加速管内で加速する装置がリニアックで、得られた加速電子線を平面状に拡散して照射します。 放射線束の制御技術の進歩により極細ビームが得られるようになり、CT画像を利用したピンポイント照射の概念が生まれ、これを三次元的に照射する方法を三次元原体照射(3DCRT)を呼びます。 この方法により電子線を複数の方向から集中照射し、前立腺への照射線量を増加しつつ、逆に正常組織への被爆を減少させ効率よく合併症を低減させます。治療費は健康保険が適用され1回約4千円、計約15万円前後です。

強度変調放射線治療(IMRT)

三次元原嗚体照射の進歩した方法で、電子線を照射するとき機械が体の周囲を回転し、電子線をより複数の方向から照射するのに加え、電子線の強度を細かく変えることにより、正常組織への被爆を最低限に、前立腺への照射線量を最大限にする最新の方法。

長所
治療効果は外科的手術や内照射に比しやや劣るとされていますが、浸潤がんの可能性のある症例には有効です。また、麻酔の必要がなく、出血のリスクもないため高齢者や重篤な基礎疾患を持つ患者さんにも施行可能です。さらに進行がんにおける骨転移の疼痛緩和にも効果があります。
短所
1回の治療時間は10分程度ですが週5日(月曜から金曜まで)毎日の通院が約2ヶ月必要です。人体における放射線被爆線量には制限があり、繰り返しての治療はできません。また、放射線治療後は前立腺と周囲組織との癒着が強くなり、外科的手術は出血が多くなるためあまり行われません。治療早期の副作用はほとんどありませんが、晩期に頻尿、排尿障害、肛門炎、インポテンツなどが現われることがあります。
粒子線治療

粒子線治療は、サイクロトロンやシンクロトロン等の加速器から得られる陽子線や重粒子(重イオン)線を、がんという標的にねらいを絞って照射する治療法です。 粒子線のうち電荷を持つもの(荷電重粒子線)の特徴は、一定の深さ以上には進まないということと、ある深さにおいて最も強く作用するということです。 これらの特徴から、陽子線や重粒子(重イオン)線では、電子線に比べてがん病巣にその効果を集中させることが容易になります。したがって、がん病巣周囲の組織に強い副作用を引き起こすことなく、十分な線量を照射することができます。

長所
三次元原体照射や強度変調放射線療法のさらに進歩した方法であり、より副作用や合併症が軽減されます。
短所
三次元原体照射などと同様に毎日の通院が約2ヶ月必要です。粒子線治療法最大の欠点はサイクロトロンやシンクロトロンといった巨大かつ高価な加速装置を必要とすることで、このために日本ではまだ数施設のみの導入です。 また、健康保険適用外であるため自費診療となり、個人負担で約300万円かかります。

b. 組織内照射(内照射):小線源療法

放射線を出す放射線同位元素を前立腺内に埋め込み、前立腺内部からがんに放射線を当てる治療法です。日本では2003年9月より認可されました。約5日間の入院が必要です。 健康保険が適用され3割負担で約40万円かかります。

長所

早期前立腺限局がんに対しては外科的手術とほぼ同等の治療成績と考えられます。脊椎麻酔や硬膜外麻酔が必要ですが、外科的手術と比べて体への負担が軽く、ある程度の高齢者や軽度の基礎疾患を持つ患者さんにも施行可能です。

短所

適応が厳しく、非常に早期限局がんしか対象になりません。前立腺の大きい方も対象から外れます。埋め込んだ直後は頻尿、排尿困難、尿意切迫などの排尿障害が生じます。 早期合併症は少ないですが、晩期合併症として尿失禁、インポテンツ、腸炎が報告されており、また、術後10年以上で膀胱がんの発生が報告されており、直腸がんなどの発生も危惧されています。また、前立腺への埋め込みは医師が行うので、施設間の治療効果に差が出ていることが現在問題になっています。

3. 内分泌療法(ホルモン療法)

前立腺がんの特徴は精巣および副腎から分泌される男性ホルモンの影響を受けて増殖しています。内分泌療法(ホルモン療法)は、男性ホルモンの分泌や働きを抑えることによって、前立腺がん細胞の増殖を抑制する治療法です。 内分泌療法には「薬物療法」と「精巣摘除術(去勢術)」があり、薬物療法としては注射による「LH-RHアゴニスト」、内服による「抗男性ホルモン剤」があります。精巣摘除術には数日間の入院が必要です。
長所

診断後すぐに治療を開始できます。身体への侵襲が少ないため、高齢の方や重篤な基礎疾患を持つ方にも施行可能です。主に進行がん(転移がん)への適応となりますが、浸潤がんに対して他の治療法(放射線療法、HIFUなど)と併用して行うこともあります。 また、根治療法後のがん再発・再燃時への施行や、小線源療法やHIFUの前段階として前立腺を小さくするために数ヶ月間施行する場合もあります。

短所

がん細胞の増殖を一定期間抑制する効果がありますが、根治性はありません。個人差はありますが治療後2-5年前後でホルモン抵抗性のがんが発生し、がんの増殖を抑制することが困難となる場合があります。 副作用として性欲低下、勃起不全、ほてり(ホットフラッシュ)などの身体症状、肝機能障害、貧血、脂質代謝異常、糖尿病悪化などの血液生化学的異常があります。この中でも骨密度の低下による骨粗鬆症の誘発増加が問題となっており、脆弱性骨折のリスクを増大させていると考えられています。

4. 化学療法(抗がん剤)

化学療法は、抗がん剤を用いてがん細胞を攻撃し、死滅させる治療法です。近年、タキサン系抗がん剤が日本でも認可がとおり期待されています。
短所

一般的に前立腺がんにおける化学療法は、ほかの治療法では効果が得られない進行したがんに対してのみ行われます。 抗がん剤を単独または併用して投与することによって、がんの縮小効果が認められることがありますが、脱毛、吐き気、下痢、骨髄抑制などの副作用があらわれることもあります。

5. 待機療法(Watchful Waiting、Active Surveillance)

がんの診断後、治療をせずに定期的検査のみで経過を観察する方法です。前立腺がんは比較的進行が遅く、高齢者にみられることが多いことから、最近は前立腺内に限局していれば無治療で経過を観察し、がんが進行した場合に治療を行えばよいとの考えです。 80歳以上の高齢者や重篤な基礎疾患のある方のうち、早期限局がんであり、PSA・悪性度が低く、がんのボリュームも小さいことが予想されるような場合に適応となります。また、何らかの理由で根治療法の時期まで待機する場合も含まれます。
長所

治療を行わないため合併症や副作用の危険がまったくありません。生活の質が保たれます。

短所

定期的なPSA検査が必要です。がんとの共存を重荷に感じる方や無治療を不安に感じる方など、精神的苦痛を生じることがあります。 進行の遅いがんかどうかを確実に診断する方法がないため、根治可能な時期を逃してしまうリスクも考えられます。

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お問い合わせ:042-649-1528

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